フォーラムレポート《中編》は、従業員の自律と主体性を引き出す「健康経営」・「働き方改革」の実践例紹介です。

HHHの会の参画企業でもある、ロート製薬様、カルビー株式会社様、鎌倉市様の3社から、それぞれの具体的な取組みをご紹介いただきました。

▼ロート製薬株式会社取締役副社長 兼 チーフヘルスオフィサー ジュネジャ レカ様

ロート製薬 ジュネジャ副社長

ロート製薬は、元は腸から始まった。腸は3日間で再生される健康の元である。「健康」っていうのはロート製薬のDNAに入っているのだ。そのロート製薬は今変わろうとしている。再生医療やアグリ(農業)など、総合ヘルスをする会社を目指していくために、去年CI(コーポレートアイデンティティー)を変えた。『NEVER SAY NEVER』という、不可能はない、何でもチャレンジするというメッセージ。

そのときに当社の会長が二つ発表した。一つは、薬に頼らない世界を出したいということ。薬は病気になったら大切だが、予防、未病によって病気にならない世界を目指して『NEVER SAY NEVER』していく。もう一つは、副業。社員がロートの仕事以外に、もう一つ仕事やっていいということだ。

健康経営について、この投資はどんな意味があるのかとよく質問される。社員が大事だ。だから社員を健康にするのだ。まず自分で病気にならないようにするセルフケアから始めようと言っている。自分できたら家族のケアを、同僚のケアをする、社会にも広がっていく、それで全て解決できる。だから私たちは健康経営に取り組んでいる。全ては1人から始まる。

▼同社人事総務部 健康経営推進グループ リーダー 坂手秀章氏

ロート製薬 坂手氏

当社ではこの春に改めて『ロートが目指す真の健康とは何か』というのを、社員向けのメッセージ、リリースとして発信した。心身の健康を基盤として挑戦する、働きがい、生きがいを感じられながら働く日々だけじゃなくて、人生そのものを送ることができてこそ初めて健康っていうんじゃないかと考えている。当社が、健康経営を取り組む目的は、社員を健康人材にすること、そして健康人材で溢れた企業として、社会の健康を支える、必要とされる企業になることだ。

心身と健康を土台にして、働き方改革を統合的に捉えて推し進めている。イキイキを実現するために、当社では「挑戦」「熱中」「主体性」という3つのキーワードを大きなポイントに掲げている。

全員役職で呼ばず「さん付け運動」をも越えて『ロートネーム』という名前で呼んでいる。会長は「邦雄さん」、副社長は「ジュネさん」と呼ぶ。オフィスもフラットなレイアウトを採用し、コミュニケーションの活性化はもちろんのこと、若手がいきなり上司を乗り越えて社長、会長に提案をしていくようなことが当たり前にできる環境を作っている。

他に、非日常で本気になれるシーン、社員が自分の普段の仕事の領域を超えて、あの人ってこんなパワーを持ってるんだ、っていうようなところを見せるシーンとして運動会をしている。これも、内容は全て志願制の社員で組み立てていく。

管理職登用も自主性次第である。新しい仕事をしたい、または管理職に挑戦したい、ということは、全て年に1度のチャレンジシートに記入して覚悟を会社に示すことではじめて登用や昇進されるという制度になっている。

また、『明日のロートを考える』=ARK(アーク)という取組みがある。人事が会社の制度を作ればいいということではなく、30年、40年もし働くとしたら、若手がその未来を作っていかなきゃいけないという考えから、若手社員の成長や育成の制度として積極的に活用している。2014年に行われた『ARK』で、私が所属している健康経営推進グループも発足した。

先ほどジュネジャからも紹介した「兼業解禁」のきっかけとなった提案も、社員が「自分たちが成長するために必要だ」と提案して作った制度。兼業の目的は、個人の成長と、個人の中での多様性、ダイバーシティを育みたいというのが大きな狙いだ。実は運用はとても緩い制度で、社会人3年以上であれば誰でも挑戦でき、健康を害する内容じゃない限りは何でもよい。「扉を開けただけ」という風にうちの山田(会長)はよく言うが、まさにそのとおりだ。現在は70名が実際に社外での兼業をしている。当社がこだわっているのは、あえてルールはガチガチに決めず、むしろ自分たちがやりたい働き方をするために必要なルールを、社員から提案してもらうことを目指している。

健康経営も働き方改革も、主役は社員。それがどれだけ社員にとって楽しいものになっているかというところにこだわっている。これは当社がすごく大事にしている部分なんじゃないかなと思っている。

 

▼カルビー株式会社 執行役員 人事総務本部長 江木 忍氏

カルビー 江木氏

この4月からCHO兼ヘルスケア委員会の委員長を兼任している。健康経営については、実は昨年度から始めたばかりなので、本日は当社の働き方改革の取り組みを中心にご紹介したい。

当社は1949年の創立で、お菓子やシリアル食品の製造販売をしている。拠点は全国ににあり、従業員数は約3700名、正社員と有期雇用の社員は半々。創業以来60年間ずっとオーナー経営だったため、トップの指示を受けて言われたことを真面目にやる、自分であまり考えないような組織風土が長らく続いていた。2009年に今の会長松本晃を迎え、それから生え抜きの伊藤が社長に就任して、初めてオーナー経営でなく現在の新しい経営体制となった。経営方針も変わった。これまではお客さまのために真面目に良い商品を作っていれば売り上げと利益が付いてくるという考え方だったが、変化し成長し続けなければ生き残れない。実行するのはトップだけじゃない、上司ではない、社員あなたがた一人一人だ、という方向に大きく舵を切った。

『簡素化と透明化と分権化』というのが、当社の経営、仕事のやり方の重要なルールになっている。簡素化とは、徹底的にプロセスをシンプルにしていこうということ。透明化とは、情報はできるだけ現場の隅々までリアルタイムに同じ情報を共有するような工夫をしている。分権化も徹底的に現場に判断を任せている。このルールで新体制になって以来、業界全体が横ばいの中で、当社はおかげさまで毎年増収、増益を続けている。

また、タイバーシティアンドインクルージョンに取り組んでいる。最優先課題が女性の活躍である。女性の管理職員数の割合が2010年度当時9パーセント、たった11人だったが、現在66人、24.3パーセントまで上昇した。これは2020年には、30%以上を本気で達成したいと思っている。

江木さん講演の様子

これらの経営方針を実現するための当社のポリシーについてご紹介したい。まず何といっても成果主義である。プロセスでなく成果を評価する。当社では人事制度というものがない。2010年度にバサッとやめ、従業員全員が直属の上司と一対一で、年に1度C&A(コミットメントアカウンタビリティー)という目標確認書を作り、この1年間でどこまで成果を出すということをコミットする。目標を明確にすることによって、全従業員が目標達成に向かって能力を発揮し成果を出す、会社に貢献した人に報いるための指針となっている。目標を設定してその進捗をレビューすることが、人が成長するための必要条件と考えている。

二つ目が、会社は学ぶ所ではなく学んだことを活かして成果を出す所だということ。家族との時間を大事にしたり、健康のために運動をしたり、自分の学びや教養のための時間を取ったり、社会とのネットワークをしっかり取る、そういったライフの充実こそが、個人の成長につながるという考え方だ。つまり、個人の成長なくして企業の成長なしだと考えている。

これらの方針を実現するための具体的な制度や仕組みについて、その中でもユニークなものを抜粋してご紹介したい。まず一つ目は、オフィスに縛られない働き方の支援制度だ。当社では、本社および地域事業本部のオフィスは全てフリーアドレスにしている。社長も会長も丸見えでその辺にいるオフィスだ。座席割り振りシステムを使って、その日の仕事の段取りによって座席のタイプとそこで何時間仕事するかを選択する。以前は、縦型の自社ビルで部署ごとに壁があったが、今はさまざまな部署のメンバーが混じり合ってコミュニケーションが促進されている。営業職は直行直帰にすることによって、移動時間ロスとか内面のストレスを軽減している。2014年度から在宅勤務制度を導入した。通勤時間の有効活用と、在宅で集中することにより生産性向上を目的としている。在宅勤務ができるかの判断は人事ではなくて直属の上司が行う。

最後にキャリア形成支援について。自主学習を支援する『自己PR制度』がある。有期雇用者も含めて従業員全員が対象で、全200コースから自分が学びたいものが選べる。修了者には、受講料を会社が半分補助している。また、人材育成は経験こそが成長の機会であるという考え方から、キャリアチャレンジの場を提供している。社員が自分のこれまでの実績等をアピールし、過去2年間のC&Aの結果等も選考の基準の一つになっている。異なる職種へのチャレンジや、有期社員が正社員を目指すチャレンジなどがある。

効率よく仕事をし、自己研鑽の時間で健康やスキルを上げ成果を上げる、この好循環を実現していくために、働き方改革のチャレンジを続けていきたい。

 

■鎌倉市市長 松尾崇氏

鎌倉市 松尾市長

鎌倉市は人口が17万2000人に対して、観光客は延べで年間2300万人来ていただいている観光資源豊かな市だ。高齢化率が30パーセントを超えており、市民活動が非常に活発であることも特徴で、市役所に対する市民の方からの要望も多くなりがちでもある。

そんな中、一昨年から昨年にかけて、職員の不祥事が連続して起こった。原因を探るなかで課題が見えてきて、様々な意識改革を進めているところである。根底には、職員の疲弊や不安感の増大がある。議会への答弁や議員への対応を間違うと徹底的に指摘されたり、市民の方から厳しくご指摘いただくことも多く、メンタル不調者が多くなっていることが重い課題である。職員を元気にしていきたいという目的で取り組んでいることを中心に、今日はご紹介したい。

まず最初は、健康経営。職員のメンタル不調という問題もあり、民間企業の皆さんの取り組みを学ばせていただきたいという趣旨でHHHの会に入会した。HHHの会では『健康100日プロジェクト』に約100人の職員が参加した。また、経産省の健康経営の調査にも回答した。『ホワイト500』には当然入っていないが、これからも少しでもホワイトに近づけるよう頑張っていきたいと考えている。他に、メンタルヘルス対策としてできることは何でもやろうという姿勢で、声からメンタルヘルスのチェックができるアプリの活用や、『イクボス宣言』、育児休業者の支援なども始めている。

コンプライアンスの推進担当を民間から登用した。ただ法令遵守ということではなく、市民や広く社会の要請に応えていける市役所になっていかなければいけない。不祥事等の問題の背景を探るため、職員意識調査を実施した。不祥事が起こった後、また別の部署で同様の不祥事が起こったのは、一言で言うと全てが他人事になっているのだ。鎌倉市役所では、正規職員が約1300人いるが、それ以外に約1000人の非常勤、アルバイトがいる。不祥事を再発させないための施策を組織の中で共有させていくことが難しい側面には、正規職員と非常勤職員という見えない壁があることも、今回の意識調査で明らかになった。また、この調査結果のなかで最も重く捉えているのは、パワハラ、セクハラが常態化しているという現実だ。それが表面化せずに、職員一人一人が抱え込んでいるということが見えてきた。これから一つ一つ改善に取り組んでいきたい。

また、業務改善を目的に、外部機関による業務量調査に取り組んでいる。市の職員数は20年前から約600名削減されている。しかしながら業務量はまったく減っていない。一人当たりの業務量増大が職員の疲弊の一因になっている。この調査によって、本来職員がやるべき仕事と、法令に基づいてやらなければいけない仕事、それ以外の仕事、に仕分けをした部署では残業が大幅に削減できた。

職場環境の改善も少しずつ行っている。鎌倉市役所は築50年以上の非常に古い建物で、根本的に改善していかないといけない設備環境もあるが、そんな中で職員が自分たちで考えて、職場環境の改善を始めている。壁の色を変えて黒板にしたり、立って行うミーティングスペースを作ったりしている。

また、市民を対象とした新たな健康づくりも始めている。ウオーキングするとポイントが付与される仕組みで、市民が自分たちの町を歩く活動を推進している。

我々は、これまで失ってしまった信頼を今一度取り戻すために、今、全力を上げて取り組んでいるところである。本日は恥ずかしい内容だが赤裸々にお話しをさせていただいた。これからも、皆さんの助言と支援をいただきながら、全力で進めていきたい。

 

(中編はここまで。後編へと続きます。)