従業員の自律と主体性を引き出す「働き方改革」フォーラム 開催レポート《前編》

 

神戸大学講義室にて開始されたAPO研フォーラム
去る2017年5月28日に、一般社団法人人と組織の活性化研究会(略称APO研)主催「従業員の自律と自発性を引き出す『働き方改革』フォーラム」を、神戸大学にて開催しました。

当フォーラムは、昨年の「HHHの会 発足記念フォーラム」同様に、神戸大学大学院経営学研究科と共催、経済産業省に後援いただき、HHHの会で得られた成果を発表するとともに、従業員のイキイキとした自発的な行動を生み出すための「働き方改革」に焦点を当てて公開参加型にて開催しました。日曜日の開催にもかかわらず、全国から100名を越える方々にご参加いただきました。

フォーラムの様子について、各登壇者のご発言、ご講演内容から一部を抜粋してご紹介してまいります。

■主催挨拶(APO研代表理事 石見一女)

APO研代表理事の石見よりご挨拶
APO研は、1998年4月に発足以来、人と組織のイキイキについて研究と議論を重ねてきた。発足した1998年は、自殺者が3万人を超えた年。終身雇用が崩れ、バブル崩壊後、本当の意味の”働き方”を模索していた時期と言える。そういう意味では、そのときから働き方改革の芽があったのではないか。
APO研は、2014年に一般社団法人化し、毎月、人と組織のイキイキをテーマに定例会を行っている。場所は甲南大学を中心に、名古屋と東京に中継する活動に広がっている。2006年に有志で出版した『なぜあの人は「イキイキ」としているのか』という本があるが、まさしくこれが今日の健康経営や、働き方改革のベースになる課題だと感じている。

当フォーラムでは、昨年APO研の分科会として発足したHHHの会で行った健康経営の実証研究の成果発表と、各社の実践事例をご紹介しつつ、多方面から働き方改革を考える会にしたい。

■HHHの会座長挨拶(神戸大学大学院経営学研究科 金井壽宏教授)

神戸大学経営学部金井教授
経営学の視点から、人々のやる気やモチベーション、キャリア、組織変革や組織開発の分野で研究を続けてきたなかで、健康経営というテーマにはAPO研を通して出会った。前提になっているがゆえに改めて意識することは少ないが、経営の基盤としても、イキイキと働くモチベーションやリーダーシップを考える上でも、健康というのは重要であると再認識している。

また、生きている上ではアップダウンがあるのが当然であるから、自分の体調やモチベーションの自己調整ができることが大切。優れた経営者やリーダーは、自身がエネルギーに溢れている(エナジー)ことに加えて、周りを元気にできる(エナジャレス)人であることが多い。

当たり前過ぎて忘れがちだからこそ、職場のリーダーや従業員ひとり一人が、自分や仲間の健康を意識することがイキイキと働くことに繋がる。だからこそ、自身も本フォーラムで皆さんから学びたい。

■HHHの会「健康経営」実証研究の成果報告(武蔵大学経済学部 森永雄太准教授)

武蔵大学経済学部森永准教授
HHHの会が参画企業と1年間取り組んできた内容とその成果について報告したい。
HHHの会は、約1年前の発起記念フォーラムをスタートに、参画企業の各担当者を中心に取組みを進めてきた。時にはロールモデルとなる企業担当者の話を聞いたり、課題を議論したりしながら共通の取り組みを実施し、どんな結果が得られるのかということを実証研究するという活動を行ってきた。

健康経営に関しては、大きく分けて健康増進や公衆衛生に関わる先行研究と、モチベーションの研究や経営管理理論的なところに、理論的基盤がある。従業員の健康を重視する施策の投資対効果をどう考えて、経営課題と両立させていくのかというところが健康経営の難しさであり、課題だった。

今回の取組みでは、実際に健康増進の取り組みがパフォーマンスに影響するのかということを測定した。さらに、取組みを通じて生じてきた課題を、どうすれば乗り越えていけるのかについて議論することも主目的のひとつに設定した。

先行研究を見てみると、健康を、少し広げた概念でウェルビーイングという言葉で捉えることも多い。モチベーションだとかコミットメントなどを指標に使って従業員がイキイキしている状態を捉えようとする研究である。近年注目を浴びているワーク・エンゲージメントという概念も同様。健康の上にモチベーションだとかコミットメントが乗っかっていて、従業員のウェルビーイングが高まることで、初めて業績につながっていく。心理的健康職場という研究もある。健康な職場を作るには、健康・安全に関する知識教育や、制度整備以外に、例えばワーク・ライフ・バランスや従業員の能力開発、承認(例:褒める運動)なども、重要な要素として指摘されている。

従業員参加型の取り組みが重要だということが指摘されており、健康増進をしていく上で組織開発的な取り組みを合わせて行うことが重要だと理解できる。こういった職場のコミュニケーション活性化させるような取組みが、健康経営を経営的に取り組む上で、従業員のパフォーマンスにつなげていく大事なポイントである。

武蔵大学経済学部森永准教授
今回のHHHの会では、Be&Do社のHabi*doを用いた「健康100日プロジェクト」を実施した。これは、健康行動を「やった」と専用のウェブ上で報告し、チームでコミュニケーションしながら活動することでポイントになり、チームで競いあったり、ゲーミフィケーションの要素も加えて、面白がりながら実施できるという特徴があるサービス。健康意識のない人も実践できるよう、健康知識やおすすめの健康行動例なども提供できる。

【調査の概要】

▼対象者
・実施企業15社のうち、事前事後のマッチングデータが得られた13社、710名
・希望者ではなく運営側から依頼して参加する形態を取った企業が多いため、運動習慣の有無や、年齢なども偏りは少ない。
・職務…担当者レベルが約半数、係長や課長、部長レベルの方、4社からは経営陣も参加あり。

▼事前・事後アンケート
・ウェルビーイングに関する影響、パフォーマンスへの影響を測る項目(事前事後共通)
・3社に対して追加インタビュー調査を行った。

【アンケート結果の概要】

▼ウェルビーイングへの影響
・競争的モチベーション(他の人より良い業績を残したいと思っているか)
・協力的モチベーション
・組織コミットメント

3つの項目ともに上昇している。つまり、協力していこうという意欲や、組織の一体感というような機会が向上したと読み取れる。

▼パフォーマンスへの影響
・役割内行動
・主体的な行動(創意工夫やネットワーキング)

いずれもプロジェクトによって上昇したという結果が出た。チームで取り組むことによって、違うタイプのコミュニケーションが職場の中で生まれ、それが自分の仕事に活かされたり、会社の中でのネットワークを広げる行動が起こっていることが想定される。

もちろん、効果として持続するのかという問題や、この成果が全て健康100日プロジェクトの効果なのかという疑問はあるが、15社で同時にやった結果、全般的に上昇するという結果が得られたということは言えるだろう。

▼追加インタビュー調査から
・社長や役員が同じチームで取り組むことで会社の本気度が伝わる。
・階層を超えてチームを作ることで、若手と経営陣の接点ができた。
・横断型のチーム編成により、部門間の距離感が近づいた。
・業務上のコミュニケーションが取りやすくなり、仕事がスムーズになった。
・自分の潜在的な健康課題に気づいた(健康意識が高まった)。

今回の取組みを通して、健康経営施策の有用性は提示できたが、こうした取組みは単発で終わるのではなく、日常的なものにしていく運用が必要である。
また、参加度の違いは、なぜこれをやっているのかということが従業員に浸透度が大きく影響している。効果が継続できるような運用側の視点、体制作りというのも必要である。

■健康経営の意義について(NPO法人健康経営研究会理事長 岡田邦夫氏)

健康経営研究会理事長_岡田先生

フィラデルフィア宣言で労働は商品ではないと言っているが、果たして働くことというのはどういうことなのか。病気になったら追っ払ったらいいというような考え方は、今の現代社会では成り立たない。

ショッキングなデータが2005年に出た。当時の数字だが、仕事への熱意が全くないという日本人が24%。昨日見たデータでは、熱心に働く日本人は6パーセントという数字もある。OECDの調査だと、ワーク・ライフ・バランスと健康状態の項目で、日本は下位20パーセントに入っている。日本は企業が毎年健康診断を受けさせて多額の投資をしているにもかかわらず、なぜ健康状態が最下位レベルなのか。かつ主観的幸福感も非常に悪いのは、なぜなのか。

残念ながら実は外国の人は、日本は働きたい国ではなくなっている。スイスの調査でも、外国の人たちが働く魅力について日本は61カ国中52位。なぜか。長時間労働だからだ。人材の競争力は30位。日本の企業の従業員は会社を信頼しているかというデータについても最下位。世界から比べると人の労力という点で日本は極めて低いという厳しい状態であることがわかる。

岡田先生講演の様子
そして日本の高齢化社会の中で極めて示唆のあるデータだが、65歳で退職した人と66歳で退職した人の死亡率が全然違う。1年間余計に働いた人は死亡率が11パーセントも下がっている。つまり企業というのは、健康を維持していく一つの社会を構成しており、非常に大きな役割を果たしているのではないか。

健康だからパフォーマンスが上がるといわれているが、私が企業で40年見ていると、パフォーマンスが上がったらみんな健康になる。健康経営は、この少子高齢化や外国の方の労働力を日本に導入するためにも、日本がもっと働きやすい職場にならないといけないと思うし、健康問題が経営課題・経営責任になってきたと言える。

私が産業医としてストレスチェックの高ストレス者と面接していると、よくこんな相談を受ける。仕事が詰まって辛そうにしていると、上司が辛そうだから飲み行こうと誘ってくる。上司は機嫌よく飲んでいるが、自分は明日までの期日の仕事をどうすればいいのか…と辛いと。コミュニケーション=飲みニケーションではなく、なぜ君は仕事詰まってるんだ?と、ちゃんと聞いてあげてそこを指導してあげるほうが、はるかにパフォーマンスが上がって、健康状態が良くなっていく。そうしたワーク・コミュニケーションがとれない企業っていうのは、これから恐らく潰れていくだろう。

労働生産性が高くなって、自分がやりがいがある仕事がどんどんできれば、健康状態は良くなるということが、産業医はみんな分かっていることだ。そうするとこれは健康経営が、半分は経営・管理職の責任、半分は医療職の責任。だから健康経営なんだっていうことにもなってくるわけである。従業員は入社から退職まで拘束されている。退職したときに元気な社員が出ていって、それが社会に貢献する。自分の子どもや孫を行かせたい会社であると言えるような会社であれば、健康経営が成立している。従業員が健康で労働生産性を高い状況に維持させることができるのは、管理職か経営者しかできない。病気になってからは私たち産業医は関与できるが、あくまでも健康管理責任は経営者にあるというのが一般的である。

企業の経営者は投資をした限りは必ずリターンを求めるのが本筋。だが1年間では効果は出ない。中小企業は、1年目にはお金を投資せずに時間を投資して環境を変え、モチベーションを上げていこうという提案をしている。最後に利益を投資していって、従業員に対する例えば報酬を上げるなど経営者が考えたらどうかと提案している。健康経営とその企業価値ということだが、ある企業でホワイト500を取られたところ、今までになく優秀な方や女性が入社してくれるようになったし、社内の雰囲気も大きく変わったと人事部長が喜んでおられた。

もう一点、経済産業省の事業で昨年に継続的研究をした。2万人のデータで職場環境を変えることによって、プレゼンティズムとアブセンティズムが改善することが分かったが、さらに、職場環境を改善することによって、利益に直結するという答えが出た。昨年ホワイト500ができたが、全ての企業のカンパニーカラーがよりホワイトになってくれば、日本の労働生産性はすごく高まる。それが企業価値を高めることになる。ぜひ皆さんも健康経営に取り組んでいただいて、一人一人の方がイキイキするような企業、社会をつくっていただいたらと思う。

(前編はここまで。中編、後編へと続きます。)